9月29日 研究発表「医療・福祉において対話的な関わりができる人になるには、どのようなクリティカルシンキングを学ぶことが重要か」 日本哲学プラクティス学会第5回大会

 9月29日、長野県立大学三輪キャンパスで、日本哲学プラクティス学会第5回大会が開かれました。


企画・運営に関わられたみなさん、会場校のみなさん、発表者のみなさん、ありがとうございます。

そのなかで、わたしもひとつ研究発表させていただきました。

タイトルは「医療・福祉において対話的な関わりができる人になるには、どのようなクリティカルシンキングを学ぶことが重要か」で、最初にこんな話をしてから、後は細かい話や関心のある人には役立つだろうという情報共有をしました。


 哲学プラクティスには、医療や福祉に関わる哲学プラクティスが含まれます。これは、医療や福祉の専門職に携わる人の実践だけを指しているのではなく、市中の対話カフェ、さまざまな教育での医療や福祉に関わる哲学プラクティスなども指しています。
 また、医療に関わる哲学やクリティカルシンキングといっても、本発表が重視するのは、医療技術倫理学、生命倫理学などがこれまで主として対象としてきた問題ではなく、「生活、人生」「総合的に患者・生活者をみること」「プライマリ・ケア(primary care)」「医療・福祉を必要としているにもかかわらず医療・福祉を訪ねることをためらったり避けたりする人がいる現実」などの問題です。
 

 医療や福祉の哲学プラクティスに良く関わろうと思う人は、 「対話のプロトタイプ」だけに限らない、広い意味での対話、(対話、会話、雑談、おしゃべりなどを区別することにこだわらず)「対話的な関わり」を常に視野に入れること、それについて良く知ることが重要です。
 また、ソクラテスをルーツとする「対話のプロトタイプ」、「言論嫌い(ミソロゴス)を生むことへの用心」などを知ることも重要です。
 なぜそうなのか。対話的な関わりができる人になるにはどのようなことを学ぶことが重要か。そのような関わりや学びのなかで人々の多様な語り・対話の知識、人間や社会の知識、認識的徳がどのように働くのか。
発表者はこれらの探究が欠かせないと判断し、研究と実践を進めています。本発表もそのなかに位置するものです。


  発表者は医科大学の教員でもあり、本日取り上げる教育実践は医学部の授業に限ります。そこでは、上記1・2を意識し、プライマリ・ケアに関わる人は、福祉、社会科学・哲学、対話的な関わりなども良く知る必要があるという認識で、学ぶ機会を作っています。また、これは発表者だけがそう認識しているというのではなく最新の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」でもその方向が示されています。しかし、実際の学修内容の開発はまだほとんど進められていないのが現状です。
  本発表では時間の都合により上記のような対象の限定が避けられませんが、本発表について(1で言ったように)広い意味での医療や福祉に関わる哲学プラクティスと照らし合わせて考えてくださるとありがたく存じます。関心のある方、今後もどうぞよろしくお願いします。

要点
 医療・福祉を必要とするにもかかわらず必要がサポートされない生活や人生がある。医療を必要としているにもかかわらず医療機関に行くことをためらったり避けたりする人がいる。福祉を必要としているにもかかわらずそういう場を訪れない人がおり、また、福祉を生活・人生に生かす人を貶めるような言説が表立っている。
 この社会にはこういう現実があり、また、「言論嫌い(ミソロゴス)」「不正義」などの現実があります。「生活、人生」「総合的に患者・生活者をみること」「プライマリ・ケア」の観点から、これらは、無視したり放置したりしてはならない現実です。
「哲学プラクティス、対話的な関わりがこの現実と関わるものであるためにどのようなクリティカルシンキングが重要か」、それに取り組むのが本研究です。

要点
 クリティカルシンキングの知識・スキル・態度(安定して身につくことで「徳」となる)や社会科学・哲学も学ぶこと、そして、それらが生かされる「対話的な関わり」ができる人になるよう学ぶことは、前述した現実と人の暮らしに応える学びとなります。
 それがどのようなクリティカルシンキングであるかということについて、発表者は、主として「判断、認知、思考などを正しくするための学び」と「人間と社会・地域をよく知るための、そして多様な人と良い関係で協働できるための学び(社会科学・哲学に基づいた深い学び)」(それらに支えられた対話的な関わりの学び)からなるクリティカルシンキングを、重要だと判断しています。そうした学びがないまま、また、徳の観点から見て不十分なまま医療・福祉の対話に関わることには、気をつけなければなりません。

レジュメは、リサーチマップ「菊地建至」「資料公開」からダウンロードできます。

7月中旬の4日間、8月中旬の4日間くらいしかゆっくり休めなかった今年度前半でしたが、最後にこの研究発表ができて、良かったなと思います。発表翌日の昨日も休めなかったのですが、さすがに集中できていないと感じ、早退し、今日は完全な休日に。素晴らしい秋晴れのなか散歩中です。

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